「夜空の呪いに色はない」を読んで

河野裕 『夜空の呪いに色はない』 | 新潮社 http://www.shinchosha.co.jp/book/180103/

 

それを、気づくための物語。

 

簡単に紹介をしたのちに感想を述べていき、最後に少しだけ補足を行う。なお当ブログでは感想を「作品から感じたものを言葉にし、できる範囲で自分なりに回答する」こととしたいので、原則としてあらすじの解説は行わないこと、また内容の性質上常態で記述することをご了承お願いいたします。

 

この本は階段島シリーズの第5弾であり、同シリーズの既刊には第1弾「いなくなれ、群青」第2弾「その白ささえ嘘だとしても」第3弾「汚れた赤を恋と呼ぶんだ」第4弾「凶器は壊れた黒の叫び」がある。レーベルは新潮文庫nexであり、ジャンルはキャラクター文芸とされている。キャラクター文芸、あるいはライト文芸というのは聞きなれない方もいると思うが、Wikipediaの当該記事を読んでいただけると大体イメージはつかめるだろう。

 

私はこの本が「何かを選ぶということ」に向き合い、そして「大人になるということ」に寄り添った作品だと感じた。本書中では、なにも捨てないでいられるかという課題が登場するが、それは視点によって変化するものでどう主張しても詭弁でしかないと言及される。それは、選択をする際にしばしば思考を囚われがちな取捨という側面よりも、もっと重要なことがあるという事ではないか。そしてその重要なことというのはきっと「夜空の呪い」なのだ。

 

本書の中で、ある先生が、大人になりたいと言う少女に対し、正しく大人になる為には夜が来るたび悩み、決断し、間違いがあったなら認めなさいと諭す。誰もが選ぶ事を強いられ続ける「呪い」は夜空のようにいつだってそこにあり、色も無いのに重なり合って重たく覆うと少年は気付く。その少年はまた、子供である自分を捨てた幼い男の子に対し、大人と子供の違いとは乗り越えてきた夜の数、その身に受けている呪いの数であり、子供を捨てても大人にはなれないと伝える。彼らが語るのは、選ぶこと、「呪い」を受けること、大人になることは、どうしようもなく繋がっていて、それから目をそらす事ができても逃れることはできないということだ。

 

しかし最後に少年が思い出すように、夜空はたしかに暗闇かも知れないが、星の微かな光でさえ遮られないのだ。だからこそ私はこのタイトルが、そしてこの本そのものが、等身大の優しさに満ちたものに感じる。何かを選ぶことが怖くなってしまった人、大人になりたい、大人でありたいともがく人、夜空の呪いと向き合う全ての人が、夜空を真っ直ぐに進むか細い光をきっと思い出せることを祈る本だと思うのだ。

 

〜補足〜
階段島シリーズはタイトルがほぼそのまま本編のフレーズとして登場し、またその本のメッセージを凝縮したものになっている。また各章(各話)のタイトルも同様である。これらのタイトルに込められた意味がどういうものであるか、頭の片隅で考えつつ読み進める、または2週目を読むと中々に味わい深い。また本のタイトルは最新第5弾まで色のイメージを使ったものとなっている。この法則と関連についてはまだ考えがまとまらないが、最終巻のタイトルの予想や、最終巻発表後にシリーズ全体のテーマの考察を行ってみたい。

 

最後に、私が一歩踏み出す勇気を持てたこの作品への感謝を、勝手ながら述べさせていただきたい。また、本記事を最後までお読みくださった方々に心から感謝いたします。

 

2018/06/25追記

次回は北海道旅行編第1回を7/8朝に上げたいと思います